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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(あ)3373号 判決 1954年8月20日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人李貴童の弁護人前堀政幸の上告趣意について

被告人李が囮である三村スイの誘発的行為前にすでに犯行の決意をもっていたものであって、右三村の行為は単に同被告人に犯行の機会を与えたにすぎないことは原判決の認定しているところであるから、同被告人に犯意がなかったとか又はその行為を以て右三村の代行者又は共犯者の行為とかとする前提にたつ論旨は採用できない。囮である右三村の行為が訴追又は処罰に値するか否かということは、すでに犯行の決意を以て右三村が囮たることを知らないで本件犯行に出た被告人の刑責を左右するものではない。(昭和二七年(あ)五四〇七号同二八年三月五日第一小法廷判決。判例集七巻三号四八二頁参照)次に麻薬取締法四条三号にいう「譲渡」は所論のように狭義に所有権の移転を目的とする授受に限るべきでないばかりでなく、本件記録によれば被告人には所有権移転の目的があったことが認められるから論旨は理由がない。要するに論旨は原判決の憲法一三条、同三七条一項又は同三一条違反をいうけれどもその実質は単なる法令の解釈を争うにすぎないから刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。又記録を精査しても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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